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マモルはごくりと喉を鳴らす。そうすると、対峙する少女はくすりと笑った。
「ああ、これ? 大丈夫。別に貴男を切り裂いたりはしないから」
有り得ないはずの発想を、当人の口から聞くと安堵半分、恐怖半分といった所だ。
口に出したことにより、その可能性が薄くなったことへの安堵。
口に出したことにより、有り得なくはなくなったことへの恐怖。
「話してくれないか。斯くして斯様なことをしたのか」
マモルは恐怖を押し殺そうと努めたが、それを察した賢しいルーコは再びくすりと笑う。
「ええ。まあ、見られちゃったし話すわ。知ってるかもだけど、私はサッカー部のマネージャーを務めていたの」
「務めて『いた』?」
何ゆえ、過去形なのだろうか。
「ええ。もう辞めたわ。何で辞めたか、聞きたい?」
改めて問われると、身構えてしまう。こういう質問は、大抵聞かない方がいいと相場は決まっている。しかし、聞かない限り問題は解決しない。マモルは逡巡し、悪魔の様な少女は三度くすりと笑う。
「ごめん。『聞きたい?』じゃない。『話していい?』だった。話していい?」
今度こそ、マモルは力強く頷く。それは質問の形式が変わった事と、段々とこの「切り裂きガール」との遣り取りに慣れてきた為だ。
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