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「あれで僕はもうだめだと思ったんだ。だから恭介の前から逃げだしたんだっ」
ハアハアと肩で息をする水無月を前にして佐竹は何を思っているのだろう。少しは彼の叫びの意味を読み取れたのだろうか?
ところがどうにもこの男は、他人の気持ちには超絶に鈍感だったようだ。
「もういい。どうやら言っても解らないみたいだしな。お前はまだ俺が好きなんだろ? なら、俺がお前を満足させてやるよ。あんな風に毎朝ここから俺を誘っていたんだ。これからは木崎じゃなくて、俺が可愛がってやる」
ガタンッと何かが倒れる音。水無月が抵抗する声が部屋に響いて、俺はやっとここから飛び出すタイミングを得た。そして、「木崎君っ!」と鋭く名前を呼ばれて、俺は目の前のドアを盛大に蹴りあげた。
バンッ!
ド派手なドアの音に、ベッドの上で水無月に馬乗りになっていた佐竹が驚いたように振り返った。俺は素早く二人に近寄ると佐竹の後ろから上着の襟を掴んで渾身の力で水無月から引き剥がした。
佐竹は短く声をあげるとベッドの上からバランスを崩して床に転げ落ちた。その脇を素早くすり抜けて、乱れたバスローブを直す事もせず、上体をあげて茫然と座り込む水無月を庇うように抱きしめる。
「全部聞いたよ佐竹さん。あんた、本当に最低な野郎だな」
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