王子くんの12か月 小満、そして芒種

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それを置いてもらうのと同時に、俺はこの朱華屋を手伝っている。 「あやめさん、これここに並べていいですか?」 「ええ、お願いするわね」 俺は朝に持ち込まれたという箱を開けて、その中の器たちを棚に並べていく。 どうも近所の陶芸家が新作を持ち込んできたらしい。 あやめさんとは昔からの知り合いだという陶芸家が作る器は、きれいなブルーやグリーンが印象的で朱華屋の人気商品の一つだ。 俺が慎重に作業を進めていると、制服姿の女子高生がやって来た。 以前から朱華屋に通っている子で、母親と一緒に来ることもあった。 一人で立ち寄る時はあやめさんと楽しそうに話をしたり、古い本やレコードなんかを買っていくこともあった。 今日もあやめさんに用事があるのだろうと俺は『いらっしゃいませ』とだけ声をかけて作業を続けていた。 が、彼女は俺の前で立ち止まった。 彼女は俯き加減に細いフレームのメガネの奥から俺の方を見ていた。 思いがけない彼女の行動に、少し驚いてしまって思わず 「えっ?」 と言ってしまった。 そんな俺の反応が拒絶のように感じられたのか彼女は 「あっ、いえ、やっぱりいいです」 と早口に言うと踵を返そうとした。 「あっ、ごめん、俺に用事だったんだね?どうしたの?」 俺が慌てて彼女の方を向いて話しかけると 「・・・・・・いいんですか?」 と、彼女は俺を伺い見た。 「もちろん」 俺の返事にようやく彼女は安心したようにスケッチブックを指さして 「・・・・・・じゃあ、あれをお願いします」 そう言った。
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