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今日はあなたに
私はその本を閉じると、深い溜め息をついた。
はあ、というテノールの音が、静かな部屋の中に響いた。
なんとも読後感の悪い作品だった。
小説の世界でその物語が完結しているのではなく、まるで現実世界まで侵食しているような。
この物語を知ってしまった私の背後にも恐怖が迫っているような感覚が、私の心身を支配していた。
恐る恐る振り返ってみると、やはりそこには何もなかった。
私は安堵と苦笑とが入り混じった溜め息をつき、1つ大きく伸びをした。
何か青春小説のような、最後に希望が待っている、光ある作品を読んで口直しがしたかった。
家にある本でも構わないが、まだ読んだことのない本の方が物語に没頭できる性分だ。
新しい物語を吸収すれば、この嫌な感覚も薄れるだろう。
カタン、と音を立て、私は椅子から立ち上がり、近くに掛けておいたジャケットを羽織って玄関のドアノブを回した。
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