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近隣住民に依頼主である会社のイメージを下げるような行為はご法度なのだ。
いつもであれば、呼び出しのインターホンを鳴らすと警備員がまずでてくる。
その警備員から担当者に連絡が行くのだが、今回は既に担当者が入り口に立っていた。挨拶をすると、疲れきった声で応答してくれた。以前会ったときよりも幾分かやつれているようだった。
納品に間に合わせるために、頑張った結果のやつれ具合なのだろう。
「大事な試作品だから」と手渡される。手のひらサイズの大きさの箱だ。
この小さな箱の中に、技術と情報が詰まっているのだろう。
会社の命運をかけた代物かもしれないのだと考えるとその重さに心が震える。
俺は丁寧に後部席にあるボックスへと預かった品物を入れた。
「お預かりいたします」
「お願いします」
お互いの言葉は最小限だったが、そこに長年培った信頼という絆がある。託された品物と一緒に俺はバイクを発進させた。
行き先は何度も納品したことのある、精密機械を取り扱っている大手の会社だ。
遠くからバイクのクラッチで有名な曲を演奏しているのが聞こえる。走っていれば、それもしばらくしたら聞こえなくなった。
周りを並走しているのは大型トラックだったり、軽の運送屋だったり。同業であるバイク便はほとんど見かけない。
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