第1章

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私は海である。 今日も人間のつまらない愚痴が私の中に流れ込む。 時間は真夏日の午前10時…いい海水浴日和だ。 たくさんの客が、賑やかに思い思いの癒しの時間を過ごしている。 だが、挙動不審な女性を見つけた。 『(ピーッ)くん、愛してるー!』 ビキニ姿の女性が私のもとに来るなり愛の告白を始めた。 ちなみに、告白相手は隣に存在しない…プライバシー保護のため名前は伏せさせて頂く。 満足そうに去る女性だが…この告白を一体どうしろというのだろうか? 海に叫ぶぐらいなら、直接本人に向かって叫んで欲しい。 それとも見知らぬ人間とはいえ人が周りにいるのに叫ぶだけで満足したのか…女って時々分からない。 次に別の海パン姿の男性が私のもとにやって来た。 「大トロ食いてー!」 寿司なんて海に叫ばなくても自分で買って食えば良いと思う。 高級品だから、そうそう食べられるもんじゃないが。 いや、海に向かって大トロって自分で採るのだろうか? 先進国の高度な技術を持つ生き物が、狩猟民族に退行しつつある。 人間は文明と野生のどちらの生活が幸せなのだろうか? もちろん、人それぞれだろうがそんな個人主義がまかり通るほど世の中は甘くない。 それが長い歴史の中で培った…本能的に人間が決めた生き方だからだ。 次は、子供が泣きながら海に向かって叫ぶ。 フリルの水着姿の小さな女の子だ。 「おとうさんにチューしてごめんなさい!」 懺悔された。 父には母がいるからだろうが…母がそばにいないことを考えると迷子か? 人間は恐怖心を抱くと暴れるか懺悔するかの二択を迫られる。 どうやら彼女は後者らしい…まぁ…やけになる年齢じゃないよな。 傲慢な人間の矮小な本心とされる。 とはいえ、本心とは何か。 共感できる一面が本心なのか…抑圧されて見せた一面が本心なのか。 人間の善と悪とは何か…いまだによく分からない。
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