お隣のトーゴさん

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 エレベーターなんてないアパートの階段を上がり、三階にある部屋を目指す。三階くらいなら別に階段でもしんどい距離ではない。しかし、両膝を擦りむいている少年宇宙人には、この段差の連続は辛いようだ。傷の痛さもだが、転けてから時間も経ってるし、もしかしたらあのピッタリとした服に傷口がくっついてしまっているのかもしれない。後方を必死に上がってくる姿を見てしまうと、つい情けをかけたくなってしまう。 「ほら、おぶされよ」  少年宇宙人のもとまで戻り、背を向けておぶさるように促す。しかし、恥ずかしがっているのか、男としてのプライドがあるのか、なかなか背中に身体を乗せてこない。痺れを切らし、少しだけキツめに言うと、ようやく肩に手をかけてきた。  驚くほど軽い身体を背負い、階段を上がっていく。これなら膝の痛さも感じないだろうと思ったのだが、なぜか一段上がるごとに、「イタッ」とか「ッウ」など、痛みを訴えるか細い声が吐息のように耳にかかってくる。それが気になり、階段を上がる速度を気持ちほど落としてみるが、痛そうな吐息は消えることがない。  で、しばらくしてようやく思い出した。こいつが胸元もがっつり擦り剥いていたことを。俺の背に乗っていたら、動くたびに背中が胸元の傷に当たってしまうよな。さっきの妙な間は、恥じらいでもプライドでもなく、単に傷のことを気にしての態度だったんだな。 「わりぃ。痛いだろうけど、あとちょっとだから我慢しろよ」  そう声をかけると、「ハイ」と、これまた小さな返事をかえしてきた。
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