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「ちょっと染みるけど、我慢しろよ」
「……ハイ」
部屋に戻りベッドに座らせて、俺は消毒液片手に注意を促す。だが、当の本人は上の空だ。貸した下着の締め付けが気になるのか、ゴムの部分が当たる腹回りをやたら気にしている。
濡れるからと脱がした服だが、膝部分についた血の汚れを落とすために結局濡らしてしまったのだ。今は、洗面台で洗剤液を溶かした水の中に浸かっている。で、着るものがないので、取り敢えず俺の新品の下着を貸してやることになった。
しかし、身体のサイズを比べれば格段に細いのだから、俺サイズの下着は緩くて脱げそうなぐらいのはずなんだがな。それでもヤツはゴムの部分を引っ張ったりして、肌に当てないようにしている。けど、それも仕方ないかもしれない。ヤツらの星には地球のような下着はなく、スポーツ選手が使用するファールカップのような物が服に備え付けられているだけみたいだからな。蒸れそうな気もするが、意外に通気性が良く、あの光沢あるつなぎも全く蒸れるこはないらしい。そんな違いもあって、今の状態に違和感があるんだろうな。
ま、と言ってもそんな宇宙人の衣服事情など、こっちには関係ない。俺は未だにゴムを気にする少年宇宙人に向け、容赦なく消毒液を吹き付けた。
「――ひゃんっ」
同時にあがる素っ頓狂な悲鳴。そして、飛び上がらんばかりに身体を跳ねらせ、傷口から染み伝わる痛みに悶える。言っちゃ悪いが、それはもう可愛くも面白い光景だった。
「言っただろ。染みるって」
笑いを堪えながら言うと、「……ハイ」と、泣きそうな返事がかえってきた。
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