84人が本棚に入れています
本棚に追加
◇ ◇ ◇
ゆったりとベッドに身体を沈め、深い眠りについていた意識に妙な振動が伝わってくる。止むことのない小刻みな振動に、不快な感覚で目が覚めていく。だが、少しばかり意識が覚醒しかけたところで思い出した。今朝は隣室からの声が耳につき寝れそうになかったから耳栓をしていた。おまけに、目覚ましのけたたましい音でミルトがビビるんじゃないかと、多少の気遣いもあった。だから、目覚まし代わりの携帯も音じゃなくてバイブに設定していたんだ。
振動の出どころを思い出しはしたが、普段と違う仕様に若干目覚めは悪い。取り敢えずこの不快な振動を止めようと、枕元にあるはずの携帯へと手を伸ばすが、覚束ない意識ではなかなか目的の物に手が届かない。少々イラつき始めた時、手が妙な物を掴んだ。それはヒンヤリとしていて、サラッとした毛のような物もある。しかも、片手では掴みきれないほどにデカイ。それが何なのか手の感覚だけでは認識できず、俺は目視で確認しようと身体を横に起こした。
「ぎゃんっ」
身体が何かに当たった感触がしたと思った次の瞬間、どこかで聞いた情けない悲鳴と大きな物が床に落ちる派手な音が響いた。さすがに、その音の大きさにはっきりと目が覚め、俺は上体を起こしてベッドの脇を覗いた。
「あぁ……。やっぱり」
床の上には、うつ伏せで倒れるミルトの姿があった。それは数時間前に目にしたものと良く似た光景だった。
どうやら、俺が掴んだのはミルトの頭のようだな。どういう理由か知らんが、ミルトはベッドに潜り込んできたみたいだ。で、俺が急に身体を動かしたもんだから、追い出されるように床に落ちたんだな。
しかし、何で人が寝てる狭いベッドに潜り込んできたんだ?
「…………」
ふいに視界に入り込んだ自分の姿に疑問が湧く。
最初のコメントを投稿しよう!