一章 大きなリュックと不思議な商人

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二人が去ってから時間は経ち、太陽も丘陵に半分位落ちて平原、街道、自分の体全てが橙色に染まる頃。 「あれからお客さんが来なかった……そして今日の売り上げはこれだけ」 小さな布袋を逆さに振り、手の平にあるのは銅貨十五枚、これでは晩の宿は見込めない。今日も野宿かなと小言を洩らしながら商人はイテテといいながら腰を伸ばし、ふと北にある山を眺めると黒い雲がゴロゴロと雷鳴を轟かせながら此方に向かって来るのが見えた。 「雲の流れが速いな。これは早めに店仕舞いしないと」 商人は雨が来る前に直ぐ様店を切り上げ片付けを始める。 食料や薬は次回の為に専用の布袋に仕舞い、それを露店の後ろにある汚れが目立つ灰色のリュックサックへと向かい、ロープで硬く縛られた口をスルスルと解きガバリと裾を開けた。 自分の身長の数倍あるリュックはまるで大きな化け物の口の様で、しかも夕陽の赤と相まっておぞましさに拍車を掛ける。 商人はそんなリュックの裾を持ち上げ、屈みながら中に入る。 リュックの中は暗く何も見えないが、そこは勝手知ったるもので次々と商品を特定の位置に置いていく。 リュックと露店をなん往復し粗方片付け終えた時、ポツと街道と商人の肩に水滴が落ちる音が聞こえると黒い点が段々と増え、とうとう雨が降り始めて来た。 商人はこれはまずいと最後の荷物である色褪せたテントの布をくるくると巻き、それをリュックの中へ雑に入れてからローブの襟元を引っ張り、そこからできた隙間に右手を入れて暫くごそごそすると何か紐の様な物を取り出した。
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