序は緩やかに~って、俺確かに魔王なんだけどさ

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 古の昔から、魔王といえば魔物とかの王さま。魔といえば悪役。つまり悪いやつの親玉。  強くて、反則技みたいにすごい力を持ってて、それ使って自分のやりたい放題で世界を危機に陥れる。  対して、それを倒すのは勇者。勇者といえば悪いやつを倒して世界を救う救世主。  すなわち、魔王と勇者といえば、敵と味方。  正義の勇者と悪の魔王。  うん、それが俺が持ってたイメージ、ってやつで、たぶん大抵の人が持ってるイメージと相違ないんじゃないかなって思うんだけど。 「え~っと」  俺は周りの様子を横目でうかがいつつも、さっきからこちらをすごい目つきで睨んでくる、自称勇者を見つめ返していた。  自称と言っちゃったけど、似顔絵とか写真とかで照らし合わせたとこがないから判断つけづらいってだけで、実際こうして会ってみると、身体から立ち上ってる気迫というか、オーラというかはすごいから、多分勇者で間違いはないと思う。  なにか言わなきゃと思うのだけど、冷や汗が流れるばかりで、口の中がカラカラだ。 「お前が魔王か」  威圧感パなく、言い放つ勇者。対して俺はというと、ここから逃げ出したくてたまらない。しくしく。 「あはい」  軽く口から滑り出た答えは、限りなく薄っぺらで。  ひゅるりらと、俺たちの間を一陣の風が吹き抜けた。  無言の間。  背後に広がっているのは、一面の畑。ふたつの太陽が地上をさんさんと照らしている。  俺が左手に持っているのは、雑穀で作ったおにぎり。半分潰れかけている。頭から手拭いを被って、服装は動きやすいモンペスタイル。後ろからぽそぽそと聞こえてくるのは、さっきまで一緒にお昼を食べていた、村のご近所さんたちの声だろうか。完全に観客の視線が、ちくちくと背中に痛いです。  そうこうしている内に、どこかで牛が鳴く声も聞こえて来た。  のどかな田舎風景をバックに、俺は所在無げに、開いてる手で服の裾を引っ張ると、勇者に向かってぺこりと頭を下げた。 「え~っと、魔王です。初めまして」
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