序は緩やかに~って、俺確かに魔王なんだけどさ

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 なぜか目覚めた俺がいたのは森の中。それも立ち上がることも難しい、赤ん坊の状態だ。やりたい放題の力があるとはいえ、これって一体どうしろと。魔族とはいえ、親はいるはずだ。彼らはどこに行ってしまったのか。  これからどうしたものかと途方に暮れていたら、人間と出会った。夫婦らしい、大人の男女。彼らは深い森の中で出会った赤ん坊を怖がるどころか、俺を抱き上げて家に連れて帰ってくれた。血は繋がってはいないが、今ではこの世界の俺のとーちゃんとかーちゃんだ。  さて俺の住んでるのは、王都から遠く離れた辺境の貧しい村である。  一年の半分以上は乾季と呼ばれる気候で、雨とは無縁の土地柄だ。土地も痩せていて、ほっとくとペンペン草すら生えないような場所だ。特に特産品もなく、村人たちは畑を耕して糧を得てはいたが、若い労働力はほとんどが町へと出稼ぎに出ている。畑だけじゃ生活出来ないからだ。  とーちゃんとかーちゃんも例外ではなく、冒険者として今もどこかで活躍しているだろう。たまに便りが来るので元気なはずだ。俺を拾ったのも魔の森と呼ばれる場所を探索してたからだし。  そいや先日もドラゴンを倒したとか言って、怪しげな干し肉を送って来ていたな。生で送って来るよりはいいけど、ドラゴンって魔物だろ、怪しすぎるっての。食ったけどさ! 貧しいからね! 人間食わないと死んじゃうでしょ!! あ、しまった俺魔族だったわ。人間じゃなかったわ。日々の生活に追われて、すっかり忘れてた。魔族って飢えると死ぬんだろうか。試したいとは思わないけど。  ちなみに味はというと、歯ごたえがあったね。うん。顎が外れそうになったよ。あれね、ゴム草履の裏を噛み締めてる感じ。ゴム草履とか、噛んでて泣きたくなるわ。他? うん、それだけ。 「う~ん、やっぱ、まだしばらく雨は降りそうにないなぁ」  目の前に広がるのは、村はずれの荒野。俺の家自体、村の端っこにあるんだが、その先はなんもない。なんもないとは語弊があるか。少し遠くには、俺が拾われた森もあるし、その先は壁のように切り立った高い山脈が連なっていて、魔族の住む土地があると言われている。  ようするに、俺の本当の同族のいる場所だな。会いたいとは思わないけど。
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