序は緩やかに~って、俺確かに魔王なんだけどさ

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 魔族というのは同族に対する愛情は希薄らしく、唯一と決めた相手以外には冷淡だ。どうして俺が森の中に捨てられたかは定かじゃないが、あんまり理由を知りたいとは思わない。人間より丈夫な魔族とはいえ、生まれたての赤ん坊が一人っきりで森の中って、シチュエーション自体尋常じゃないしな。  空腹は日常茶飯事だが、俺は今の生活におおむね満足している。  なぜなら前世での俺の夢は、母方の実家の農家を継ぐことだったからだ。  小さいころは夏休みや冬休みごとに遊びに行っていた。広くて青々とした田畑。真っ赤に実ったトマトやキュウリなんかの作物をもいで、近くの水場で洗ってそのまま食べる。これがまた、美味いんだ。  野菜って、もいだ瞬間から味が落ちるんだぜ。採れたてなんて美味いに決まってる。普通に社会人をやるより大変だってのは解ってるけど、そんなスローライフな人生を送りたいって、悪くないことだと思うんだ。  しかし父方の家系は代々医者だった。初めから俺の人生には医者へのレールしか用意されてなかった。それでも趣味の園芸と言い張って、庭の片隅に畑作ったりしてたけど。  親には逆らえないし、このまま医者になるしかないのかと思ってたのに、意外なところでその夢が叶ってるんだ。農業でこの村を発展させることこそ俺の天命だと思うんだがどうだろう。目指せ村おこし! 実り豊かな作物と、綺麗な花が咲く村へと、俺の力でジョブチェンジさせてやる。  魔王が天命っておかしな話のような気もするけど、細かいことは気にしない!
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