例えばさよならを言うことが

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ミリの後ろに立つ石垣に気づくと、男はこちらにも一礼する。 「これはこれは。石垣様もご一緒でいらっしゃったんですね。ご来店、誠に有難う存じます。」 それに対して、石垣も軽く頷いて見せた。 恐らく榊原から、昨日石垣がここに来た話を聞いていると思うが、そんな素振りは少しも感じさせない。 サロンに案内されると、ミリは既に並べられていた商品を見始め、石垣は椅子に座り、腕組みをしながら天井を仰ぐ。 沙耶はここのどこかにいる筈だと思うと、居ても立っても居られない。直ぐにでも探したい衝動に駆られる。 「こっちとこっち、どっちが良いと思う?」 そんな石垣に、ミリは色違いのバッグを見せ、意見を訊く、が。 「どっちでもいい。」 彼はこちらを見ようともせず、興味なさげに答えるだけ。それが気に食わないミリは、虎井に不満そうな顔を向ける。 「虎井。」 「はいっ!」 「お店に直接伺うわ。」 「えっ?」 突然のミリの言動に、流石の虎井も一瞬虚を衝かれたようになる。 「聞こえなかった?」 「…あ、いえ!喜んでご案内させて頂きます。」 なんとか取り繕ったものの、動揺していない訳がない。 「ここで良いだろ。困らせるなよ。」 石垣が溜め息混じりに窘めるが、ミリはニコッと笑う。 「貴方と並んで歩きたいの。」
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