例えばさよならを言うことが

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ミリの運転手は、すくみ上がっていた。 車内は静まり返っていて、まさに一触即発の雰囲気。   石垣家から梟王までの道のりも、お世辞にも明るいとは言えなかった。だが、梟王から戻ってきた二人を纏う穏やかでない空気はそれを上回る。 最初に口を開いたのは、石垣の方だった。 「ーー早く話せよ。」 苛立っているのは明らかだった。 それでもまだ抑えているのが分かる。 しかしミリは、あははと笑い飛ばす。 「そんなにあの子が大事なの?」 「お前に関係ない」 「そんな言い方ある?私婚約者よ?」 「親が勝手に決めただけの、ただの口約束だ。」 一瞬の沈黙。 「お前、あいつに何をした?」 声色が変わった。 何かに気付いた石垣が、ミリを射るような目で見る。 「何って何?」 ダン! おどけたように答えたミリの顔の直ぐ横を、石垣の拳が勢いよく当たる。
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