例えばさよならを言うことが

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なんとか存在を顕示しようと、わざとらしく振る舞う毎日が始まった。 何としても、諒の視界に入りたかった。 成績優秀で、スポーツも出来る、文武両道の諒を、認めない者など居なかった。 欠点と言えば、その性格の悪さ。 他者と知り合うことを、必要としていなかった。 ただ、上り詰めようとしていた。 何かを目指して。 当然のように飛び級していく諒と、ミリが一緒に過ごした時期は僅か。 あのパーティー以来、一言も言葉を交わしたことのない二人の距離が縮まったきっかけは、一冊の本によってだった。 ミリが机の上に出していたシンデレラの本。 他の何も入らなかった諒の目に、留まった。 『ーDo you like this?(これが好きなのか?)』  後ろの席の友人と話していたミリの傍を通り過ぎる際、ミリが完全に油断していた瞬間に、諒はそう訊いてきたのだ。 余りにも唐突で、空耳かと思ったが、固まって振り返ることのできないミリに、友人が答えろと促しているので、どうやら本当に話しかけられたらしい。
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