例えばさよならを言うことが

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石垣が、駆け寄ろうとした瞬間。 「ーーーーーー……」 沙耶の手から、傘が落ちる。 代わりにその手を掴む坂月。 引き寄せられた沙耶は、そのまますっぽりと、坂月の胸に収まった。 顎から滴る雨の雫が、いや、目に映る物全て、それだけじゃなく、自分の心臓の鼓動さえ、停止したかのような感覚に襲われる。 息の仕方も忘れて、頭も真っ白になって、もう何にも残ってない空白を通り越した後で突如襲ってきたのは、激しい胸の痛みだった。 『姉ちゃんは今、坂月さんのマンションにいます。』 頭の隅では分かっていたし、そうだろうと思っていた。 でも、もしかしたら。 まだ。 そんな甘い考えがあった。 実際目にすることのダメージは、予想していたより遥かにーー。 『姉ちゃんは、あなたを諦めた。』 指先から零れ落ちた雨の感触が、急に鮮明に戻ってくる。 沙耶は、 坂月を選んだ。
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