653人が本棚に入れています
本棚に追加
/243ページ
『あ、れ?どうしたんだろ……すみません。』
確かに言った。
社食で、ふいに溢れてきた涙に動揺して。
朝比奈は愛らしい見た目とは裏腹に細かい人間だ。
その後に取り繕った真っ赤な嘘は、朝比奈には通用しなかったのだ。機転の効く彼は、その時には問い詰めたりせずに、落ち着いてきた頃合いを見計らって、こうして訊ねている。彼らしく時間を無駄にしない、一番効率的なタイミングだ。
じっと見つめてくる朝比奈の目の中には、悪意も好奇心も感じられないが、全てを見透かされているような気味の悪さがある。
「僕は別に詮索したい訳ではないんです。ただ……秋元さんはとても難しい立場にあるので。」
返答に窮していると、朝比奈は目を逸らし、少しだけ罰が悪そうに頭を掻いた。
「えーー?」
首を傾げた沙耶に、エレベーターが到着を告げる。
最初のコメントを投稿しよう!