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降り立ってみると、なかなか広いスペースであることが分かる。
朝比奈は、沙耶から手を放して、更に少し進むと、ふいに立ち止まって、ほら、と前方を指差した。
その先に見えたものは。
「あっ…」
沙耶は思わず声を上げる。
そこから静かに佇むカデンテの時計塔が見える。
下から見上げるそれではなく、横顔のような。
「ーーこの高さで、こんなに間近に見えるのは、ここくらいなんです。」
丁寧な細工、青い文字盤に施された装飾までもが、はっきりと見える。
「きれい…」
気付くと、口から、こぼれ落ちていた。
凛々しく、毅然とした様で、街を見守る時計塔は、一体、どれくらいの時を、刻み続けたのだろう。
「買収されてから、僕は梟王に来たので、榊原さんや虎井さんみたいに、昔の梟王は知らないんですけど…」
沙耶が見惚れていると、朝比奈が同じように時計塔を見つめながら、徐に話し出す。
「でも僕は、前社長の経営方針や社員への教育、指導方法に疑問を抱いていました。」
沙耶は朝比奈に目をやるが、朝比奈は時計塔から視線を離さない。
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