例えばあの時の出逢いが

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「新しい社長の下ではやっていけないと辞めていった人達も沢山いました。僕も一時期本気で辞めようかと悩んだことがあります。そんな時、僕をここに連れてきてくれた人が居たんです。」 『朝比奈くん、社食いかない?』 時計の針が遡るような錯覚と共に、朝比奈の目に映るのは、遠い日の出来事。 当時梟王は新旧で真っ二つに分かれていた。 朝比奈に親しげに話しかけてくるその人は、買収と共にやってきた新体制側の人間で、周囲から胡散臭いと思われていた。 そういう偏見を取っ払ってしまえば、いつも穏やかで近づきやすい空気を纏った人物で、一言で表すならば、『無害』な感じがした。 何の権利も持っていないし、ただの一社員。ただのおじさん。 しかし、分裂した梟王内では、できるだけ接触を持ちたくない存在でもあった。入ったばかりの朝比奈に仕事を教えてくれるのは旧組の人達。 新組と仲良くしている所なんて目撃されたら、この先路頭に迷う事必至だった。 『行きません。』 加えて毎日、新経営陣の荒っぽいやり方の愚痴を聞かされていた為、自身の中に刷り込まれた敵対心も手伝って、突き放すような言い方になる。実際入ったばかりなのに辞めてしまおうと考えたくなるくらい、内部はぐちゃぐちゃだった。
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