例えばあの時の出逢いが

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前日準備の日、会場設営は着々と進んでおり、朝比奈も手伝いに回っていた。 『どういうことだっ?!』 突然、穏やかではない声が上がって、作業していた全員の視線が、瀬能に注がれる。 『くそ、特注で頼んで作らせてあった陳列什器が発注ミスで来ないらしい。これじゃディスプレイは完成しない!』 取引先の重要ポイントでもあり、商品を陳列するのに、いかに美しく、お客様の購買意欲を沸き立たせるかと熟慮に熟慮を重ねた結果の兵器が、来ない。 周囲の空気が張り詰める。 発注ミス?どういうことだろう、と朝比奈が首を傾げていると。 瀬能が信じられない一言を放った。 『朝比奈!お前、取引先に頭下げてこい。』 『ーーえ?』 なんで僕が。と喉まで出掛かったがなんとか堪えた。 『俺はこの場をどうするか考える。お前のミスなんだからお前が行ってどうにかしてこい。』 周囲の視線も一気に朝比奈に注がれる。 まさか、とは思うが、全くもって身に覚えのない濡れ衣を着させられているようだった。 『は……いや、え?』 『さっさと行け!!』 理不尽さに、そして親切な先輩の豹変ぶりに、頭も心も追い付かないが、身体だけは反射的に動いて、とにかくその場から走り出した。
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