例えばあの時の出逢いが

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普通に考えて、一番接点のあった瀬能が謝罪しに行く事が、取引先にとって一番良いのではないか? 信頼関係というものだってあるだろう。許してくれる確率も朝比奈よりはずっと高い筈だ。時間が時間だがーー取引先もう閉まってるんじゃないのか。そういえば、あの場に関係者いなかったんだろうか。設営にはビルジョイエ側からも幾人か来る予定だった筈だ。 ディスプレイが完成したら搬入が始まるスケジュールだった。 そもそもなんていう失敗なのだろう。 あれだけ周囲に散々指示を出していたのに。 いや、多忙を極めていたとは思う。失敗は誰にでもある。 発注ミスって一体なんだ。どんな風に失敗したらこんな状況になるんだ。 日にちを間違っていたとか? 最悪明日朝届けてもらうことってできないんだろうか。 そしたらそこからディスプレイを総出で仕上げれば間に合うんじゃないだろうか。 というか、何故。 何故自分が。 走りながら、頭の中にぐるぐるぐるぐると混乱が渦巻いていて、朝比奈は自分がどこをどう走っているのかさえ理解していなかった。 ー辞めたい、辞めたい。何でこんな目に……。 『危ないよ。』 突然誰かから腕を掴まれて、驚いて立ち止まる。 そうして初めて、自分がかなり息を切らしていること、汗を掻いていることに気付いた。 『そんな血相変えてどこ行くつもり?』 目の前に立っていたのは、木本だった。
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