654人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、どうなったんですか?」
沙耶が続きを促してくる。
初めてここに来た日は、星がきれいな、冬の寒い夜だった。
今は暖かさを含んだ強い風が、朝比奈にぶつかってくる。
「その人は僕をここに連れてきて、缶コーヒーを一本渡して、一人にしてくれました。僕はその間、辞める決意を固めていました。先輩が自分になすり付けたミスを明らかにするか、は悩みましたけど、なんか段々どうでも良くなって。僕はどうせ辞めるんだし、あんな人たちばかりだったら梟王の行く末は火を見るよりも明らかです。でもこのまま帰るのもどうかと思って、とりあえず現場に戻ったんです。」
信じられないことに、ディスプレイは完成していた。
そしてどうしてか、朝比奈は感謝され、後日瀬能は降格させられたのだ。
「それから何かあると必ずここに来るようになりました。その人とも社食にも行ったし、ここで一緒に缶コーヒーを飲むこともあったし……。今でも僕のお気に入りの場所なんです。」
当時は鍵がなくても開いたんですけどね、と付け足す。
「えっ……その方は今もいるんですか?何者だったんですか。」
驚き、訊ねる沙耶に、朝比奈は今度は答えず、時計塔に目をやり、懐かしむように笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!