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『ここにいたんですね。』
翌日木本を探したが見つからず、もしやと思って教わった場所へ来てみると、彼は時計塔を眺めながら、コンクリが突き出た場所に腰掛けていた。
缶コーヒーが傍に置かれている。
『おはよう。寒いね。』
振り返った木本は、朝比奈の突然の登場にさして驚いた様子もない。
相変わらず、のんびりとした口調だ。
『昨日、戻ったら、設営終わってて、来ないはずの特注の陳列什器がきてました。』
対する朝比奈は、発する言葉に少しの余裕もなかった。
『へえーそれは、良かったねぇ。』
『とぼけないでください。木本さんですよね?』
残っていた人間は誰も木本の名前を出さなかった。全部朝比奈が手を回した事になっていて、瀬能は何も言わず、青い顔をして足早に帰って行った。
なすりつけようとした先輩は許せなかったが、青い顔になるのは自分も同じだった。
何が起きたのか、到底考え付かず、そこはかとない恐ろしさが込み上げてくる。
『何のことかなぁ。』
木本は尚もはぐらかしながら、缶コーヒーを手に取って口に運んだ。
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