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『あなた一体何者なんですか。』
警戒心も、苛立ちも隠せないまま、問う朝比奈を、木本は眩しそうに見上げた。太陽を背にしていたので実際に眩しかったのかもしれないが、それだけが理由ではなさそうだった。
『何者って……僕は出向してるだけの、ただの販売員なんだけどね。ただねーー』
コン、とコンクリートに再び置かれた缶が、鈍く音を立てる。
『君が辞めるのは、惜しいと思ったんだよ。』
木本は立ち上がって歩き出し、突っ立ったままの朝比奈の目の前までくると、はっきりそう言った。表現はし難いのだが、木本を纏う空気が、僅かだが確かに変化して、朝比奈は目を見開く。
『梟王は後ろばかりを振り返るようであってはならない。前を向かなければいけない。でなければ買収されてまで生き残った意味がない。後ろを振り返る人間や足を引っ張る人間は必要とされていない。しかし君はーー』
言いながら、木本が指先で宙に円を描いたのと、朝比奈が後退りしたのは同時だった。
『梟王に必要な人間だ。』
張り詰めていた空気が、木本がニッと笑った瞬間、弾け飛んだ。
『って、僕は思っただけだよ。』
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