例えばあの時の出逢いが

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それからもっと後になって、木本の正体を知る事になったのだがーーー。 ひゅるりと風が音を立てて抜けていく。 記憶の中では確かにいつも彼が居た場所に、自然と目が行っていた。 しかし、馴染みの缶コーヒーは、もう長いこと、そこにない。 危険だからといつの間にか鍵がかけられてから、ここに来るのは以前より面倒になった。 でももしかしたら、ひょこっと現れるかもしれないと。 『社食、いく?』 朝比奈を振り返って、にこっと笑って、そんな風に声を掛けてくるんじゃないかと、ついつい足が、ここに向かう。 結局彼が、何を考えていたのか、分からないままだったが、本当は訊きたいことがあった。 思えば、彼はいつも一人だったのだ。 そして、ここに、一人で来ていた。 だから。 一人になりたいって、あなたも、そう思っていたんですか。と。 あなたは何を、抱えていたんですか、と。
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