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「人って、出会っては別れてを、繰り返す生き物ですよね。」
「えっ?あ、はい…。」
沈黙を破って、朝比奈が唐突にそんな事を言い出すものだから、沙耶は少々面食らって、おぼつかない相槌をなんとか打つ。
「でも、例えば、あの時の出逢いが、未来の自分を変えるって事もあるーーもう、二度と会うことができなくても、将来の自分に影響を与えるという事がありますよね。」
ずっと、どこか遠くを見ているような目をしていた朝比奈が、漸くはっきりと、今の沙耶を捉えた。
「でも僕はね、思うんです。自分が助けてもらったから、自分も力になりたかったって。自分の未来が変わったならその人の未来も変えたかったって。」
「それは……」
まるで後悔しているかのような過去形。
もう、「彼」はいないという意味なのか。
沙耶は言いかけて、止めた。
朝比奈が目頭を抑えたからだ。
泣いているのかと、思った。
「僕は、泣くこともできない。」
ややあって、朝比奈は少し掠れた声で、呻くように言った。
そして再び、沙耶を真正面から見つめる。
「でも、貴女は泣くことができる。」
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