例えばあの時の出逢いが

27/31
前へ
/269ページ
次へ
今まで色んな傷を負ってきたが、石垣への感情を自覚した後に出来た傷は、坂月によって、少しずつ癒されていく気がしていた。 それなのに。 西園寺と腕を絡ませ一緒にいる石垣を見た時、ぱっくりとまた開いた。いや、少しも治って等いなかったことを思い知らされた。 むしろ、じわじわと傷口は広がっていく。 「さっきも言いましたが、僕は詮索したい訳じゃないんです。でも後悔しない道を選んで欲しいんです。後戻りできる内に。」 朝比奈が動揺している沙耶から目を地面に落として、言った。 「……この件は、朝比奈さんには関係ありませんし、私が納得してした決定です。今更後戻りなんてする気はありません。」 「本当に関係ありませんか?」 沙耶がなんとか振り絞るように答えると、朝比奈はやや挑むような口調で切り返して来る。 「何が言いたいんですか?」 「秋元さんが梟王と何の関係もなかったら、今回と同じ決定をしていましたか?」 「それは……」 言葉に詰まる。 正直どちらとも分からなかった。つまり答えるのを迷うくらいには、悩んでしまう自分が居る。 「そんなに……枷になるのなら、梟王を、手放したらいいじゃないですか。」 朝比奈がそう言うと同時に、風がザァッと、一際大きく吹き付けた。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

654人が本棚に入れています
本棚に追加