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今まで色んな傷を負ってきたが、石垣への感情を自覚した後に出来た傷は、坂月によって、少しずつ癒されていく気がしていた。
それなのに。
西園寺と腕を絡ませ一緒にいる石垣を見た時、ぱっくりとまた開いた。いや、少しも治って等いなかったことを思い知らされた。
むしろ、じわじわと傷口は広がっていく。
「さっきも言いましたが、僕は詮索したい訳じゃないんです。でも後悔しない道を選んで欲しいんです。後戻りできる内に。」
朝比奈が動揺している沙耶から目を地面に落として、言った。
「……この件は、朝比奈さんには関係ありませんし、私が納得してした決定です。今更後戻りなんてする気はありません。」
「本当に関係ありませんか?」
沙耶がなんとか振り絞るように答えると、朝比奈はやや挑むような口調で切り返して来る。
「何が言いたいんですか?」
「秋元さんが梟王と何の関係もなかったら、今回と同じ決定をしていましたか?」
「それは……」
言葉に詰まる。
正直どちらとも分からなかった。つまり答えるのを迷うくらいには、悩んでしまう自分が居る。
「そんなに……枷になるのなら、梟王を、手放したらいいじゃないですか。」
朝比奈がそう言うと同時に、風がザァッと、一際大きく吹き付けた。
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