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「……何を、、言ってるんですか。」
驚いた沙耶は、目を見開く。
痛む傷はそのままに、身体が冷たくなっていくような錯覚に襲われる。
血の気が引いていくと言った方が正しいか。
「貴女の立場は確かに難しい。貴女は梟王の持ち主でもあり、梟王に試されてもいる。でも、それによって貴女にとって大切なものを手放す必要はないんじゃないですか。貴女にとってそれは、梟王より価値があるはずです。」
ここに来る前、エレベーターを待っている間も、朝比奈は、沙耶を難しい立場だと言った。
『僕は別に詮索したい訳ではないんです。ただ……秋元さんはとても難しい立場にあるので。』
どういう意味なのか、その時はよく理解できなかったが。
「それがここに連れてきた狙いですか?」
出てきた声は、身体と同様に、自分でも驚くほど冷え切っていた。
「私を、説得する為に?」
親切さを装って、詮索ではなく、言いくるめる為に、自分から手放すように。
気付けば、約束の3ヶ月はもう目の前だった。
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