例えばあの時の出逢いが

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「……強いなぁ。」 沙耶の立ち去った後。 一人で風に吹かれながら、朝比奈はぽつりと呟く。 さっき沙耶にした話に嘘はなかった。 未だに泣くことすらできない自分は、失ったものを自覚できないでいる。 だから、前に進めないでいる。 そして恐らくそれは、榊原も虎井も同じなのだ。 自分達3人にとって、あの出逢いは、今持つ全てのものを築く上での礎のようなもの。 そして全員が、『彼』を追っていた。 並べるはずもないが、いつか並びたいと思っていた。 その存在が、何の前触れもなしに、ある日突然消えてしまった。 自分が変えてもらったから、その人の未来も変えたいなんて、無理な話なのは分かっている。あの人の未来は、彼自身で切り開けていた。自分の助けなんて必要なかった。 けど。 でも。 彼の人生に、未来も関わっていたかった。 今も見ていて欲しかった。  
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