例えば、強さというものが

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「沙耶ちゃん!」 昼を過ぎた頃。 榊原に呼び出され、従業員用エレベーターが降りてくるのを待っていると、巡回清掃スタッフの佐久間が声をかけてきた。 「あ、佐久間さん!1週間くらいお見かけしませんでしたが、どこか体調崩されてましたか?」 佐久間は還暦を迎えたばかりの、非常に丁寧な仕事をする小柄な女性だった。 「あらぁ、気付いてくれてたの?ありがとうー。そうなのよぉ、先々週ぎっくりやっちゃってねぇ。別に取り立てて重いものを持った訳じゃないんだけど……やっぱり年には敵わないわねぇ。」 こうして仲良く話すようになったのも、レストルームの磨き上げられた鏡と水道の蛇口の美しさの極意を、沙耶が訊ねたことがきっかけだった。 「それは大変でしたね。無理しないでくださいね。」 「ありがとう!それと、溝口さんが沙耶ちゃんから皆にお菓子もらったって聞いたわよ!私ももう頂いちゃった!ごちそうさま!」 「いえいえ、少しですみませんー」 そして、この清掃スタッフのリーダー格と打ち解けた事により、梟王の清掃スタッフはほぼ全員、沙耶と顔見知りだった。
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