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僕が通いつめていた、とある本屋があった。
最初は小さな出来心だった。本なんて滅多に読まず、連日少年サッカーの練習に明け暮れていた僕は、ふとした思い立ちと好奇心に導かれて、その本屋に入った。
適度に効いた空調と、香ばしく鼻腔を撫でたパルプの甘い匂い。店内は心地よい静寂だけが空間を満たし、冊子に向かう人々の顔は、みな一様に幸せそうだった。決して大きくはない、しかしどこかアーバンな雰囲気を漂わせる内装。店の自動ドアをくぐった瞬間から、僕はこの店の虜になっていた。
その体験が確か、僕が小学校五年生の頃だったと思う。それから五年間、僕はその本屋に向かう足を止めることはなかった。
冷やかすだけの時もあったし、流行りの文庫本を五六冊ほど買い込むときもあった。他愛ない雑誌も買ったし、漫画だってそこで買った。だけどそれらも、店内にいる為の口実に過ぎなかったのだろう。僕はあの空気が、匂いが、堪らなく好きだったのだ。
そんな僕は、青春時代でたった一度の、恋をした。
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