三章

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 さらに歩いていく。階段が見えた。三階へ続く、のぼり階段。その手前が、メイベルの寝室だ。 「ここまで来たら、ちょうど部屋から出てきた、メイベル叔母さまに出会いました。そうでしたよね? 叔母さま」と、サイモンが言う。 「ええ。わたくしも気になって、兄の部屋へ行ってみようとしていたところでした」 「では、ここからは三人で、あがっていったのですね?」  ワレスが問うと、彼らは顔を見あわせる。  代表でメイベルが答えた。 「いいえ。違います。わたくしは部屋が近いので、悲鳴は兄の部屋からだと、ハッキリわかりました。兄が心配だったので、サイモンにさきに行ってくれるよう、たのみました。かわりに、わたくしが伯母さまの手をとって、あとから階段をあがっていきました」  老人づれでは、たしかに走ってかけつけるというわけにはいかない。 「なるほどね。サイモンのほうが若くて体力もある。男だから、万一のときにも対処できると考えたのですね。じゃあ、サイモン。君はあの日のように走って」 「わかりました」  サイモンは階段を二段とびでかけあがっていく。そのあとを足の遅いクロウディアをつれて、ついていく。じきにサイモンの姿は見えなくなった。  ワレスも走って追っていく。  サイモンはちょうど、三階のあがりぐちの部屋のドアノブに手をかけたところだった。 「ここで、僕は一人でなかへ入ってみました」 「ああ。ちょっと待ってくれ」  下をのぞいてみると、女二人は、まだ階段の半分くらいまでしかあがっていない。  ワレスはふところからカギをだした。ドアをあける。 「あの日は、ここがあいてたんだな?」 「あけっぱなしだった。『伯爵、何かあったんですか?』と大声でさけびながら、かけこみました」  じっさいに、サイモンはドアをひらき、室内に入った。 「あの日は夜中だったし、急なことだったので、明かりを持ってなかった。暗くて、室内を見渡すことはできなかった。でも、月明かりがあったから、歩くのに困るほどじゃなかった」  今日は食堂からの帰りだ。サイモンは灯のついた燭台(しょくだい)を持っている。その明かりで、ワレスはザッと室内を見る。 「入ってすぐは居間なんだな」 「伯爵はここで一人、すごすことが多かった」  書きもの机や、多くの本をならべた本棚がある。ひじかけ椅子。チェスト。グラスやデカンター。酒びんなどの入った、背の高い飾り棚も。  落ちついたふんいきの調度だ。  伯爵は孤独な男だったかもしれないが、趣味は悪くない。置かれた本が装飾でなければ、教養も高かったろう。 「リビングの両側に続き部屋があるんだ。右手がバスタブのある部屋で、衣装部屋にもなってる。で、こっちが寝室。あの日は寝室とのあいだのドアがあいてた。なかから明かりがもれてたんだ。それで、僕は寝室へかけよった」  サイモンは左手のドアへ歩いていった。そこをひらくと、ワレスに道をゆずる。  のぞくと、かすかに鉄っぽいような血の匂いがした。部屋が暗い。カーテンがとざされている。 「よく見えないな」 「今日はね。でも、あの日はベッドの枕元に明かりがついてた。戸口に立っただけで、そこに倒れてる伯爵が見えたよ。顔が……ああだったから、僕は伯爵だと思って、疑わなかった」 「そうか。あんたは若いからな。昔の伯爵を知らないのか」 「そうなんだ。それで、ビックリして……どうしたかな。一瞬、立ちすくんだと思う。そう長い時間じゃなかったと思うけど。気をとりなおして、寝室のなかへ入ってみた。胸にナイフの刺さってるのが見えたんだ。もう一度ビックリして、僕は部屋をとびだした。『伯爵が死んでる!』って叫びながら、ろうかへ引きかえしたところで、追いついてきた大伯母さまと叔母さまに会ったってわけ」  今日のところは、サイモンは寝室に入るのをはぶいた。  ろうかへ戻ると、ちょうど、そのとき、メイベルとクロウディアがドアの前に立った。  ワレスは考える。 「ここでふたたび、三人になった。離れていたあいだは数分ということか」  考えながら、女たちをながめる。 「そのあと、あなたがたは、どうしましたか?」
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