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翌日。
ワレスはメイベルから騎士長のオーガスト・レイ・キャンベルを紹介された。
オーガストは細身で手足の長い、優美な男だ。機敏な動きが、いかにも武人らしい。雪のごとき白い肌に漆黒の髪。ユイラ民族に広く見られる特徴だが、この地方の人間は、その美点がとくにきわだっている。
メイベルやシオンもそうだが、騎士長も、白い肌に男らしい濃い眉、ぬれたような黒い瞳が美しい。美貌がそこなわれる前の伯爵のイメージが、なんとなく重なった。そういえば、年齢も四十前後と、伯爵に近い。
「皇都のお役人なのよ。お兄さまのことを調べてくださるそうです。よきよう計らってくださいね」
主家の麗しい姫に、騎士長は特別な思いをいだいているらしい。メイベルに声をかけられて、白い頬を薔薇色に染めている。美しい姫と美しい騎士で、とても絵になる。
メイベルを他家へ嫁がせるのに問題があるのなら、さっさと、この騎士長あたりにでもやってしまえばよかったのだ。
メイベルが去っていくあいだ、オーガストはずっと、ひざまずいて見送っていた。姿が見えなくなって、やっと立ちあがる。
「姫君の仰せなので協力はする。しかし、我々のやりかたに口出しはしないでもらいたい。我ら近衛騎士とて、けんめいに伯爵閣下をさがしているのだ」
とつぜんのライバル出現に、騎士長は気を悪くしている。
ワレスは笑った。
きっと、恋しい女にいいところを見せたいからだ。私が行方不明の兄上を見つけましたよと、言いたいに違いない。
二十も年下のワレスに鼻で笑われて、オーガストはますます気分を害した。
「何がおかしいのかな? ティンバー卿のおつれのかた」
ワレスは、今度はやや皮肉な笑みをもらした。
(名字のないおれは、あくまで、ジェイムズのオマケか。見てろよ。今にメイベルを落として、その鼻をあかしてやるからな)
ひそかに決意する。
「いや、あんたはきまじめなジェイムズと気があいそうだと思っただけさ。伯爵さまも、あんたみたいな男だったのかな?」
「まさか。閣下はご立派な主君だった。温厚で博識。その上、意思の強固な、これ以上はない名君だ。閣下をうやまわぬ者はこの城にはいない」
誰に聞いても、そこのとこはゆるぎない。
「ふうん。伯爵は城じゅうの人間に慕われていた。奥方以外には……か」
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