四章

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 そのあと、ワレスたちは兵士詰所につれていかれた。騎士たちがこれまでに調べた事件の記録を見せられる。が、そこからは、これといった記述は見つけられない。 「記録はもういい。それより、城内を案内してもらいたいな」  ワレスはオーガストをうながして、城のあちこちをつれまわした。とくに兵士詰所や台所など、召使いが働く前に、ひととおり姿を見せておく。これで都の役人として知れわたった。あとで一人で聞きまわるのがラクになった。  オーガストは不満そうだ。 「何が見たいのか知らんが、今度はどこへつれていく気だ? すでに城内は我々がくまなく調べた」 「そうだな。だいたい、まわったな。あとは裏庭にある塔くらいか」 「あれは現在、使われてない古い塔だ。戦乱の時代には物見やぐらとして使われた。今の平穏な時代では、その必要もない。しいて言えば、古い時代の遺物が打ちすてられた蔵みたいなものか」 「浴場からながめたとき、その近くに別棟の屋根が見えた。あれはなんだ?」  オーガストは一瞬、男らしい眉をしかめた。ふれられたくない話題にふれたときの顔だ。 「何かあるのか?」  問いつめる。  なにげないふうを装って、オーガストは首をふった。 「いや。あれも前時代の遺物にすぎぬ。戦乱の時代に捕虜を入れておくための牢獄だった。だが今は、罪人は町の留置場に入れる。城内に罪人を置くことはなくなった」 「では、使われずに放置されてるのか?」 「そういうことだ。さあ、もういいだろう。私にもこれで、いろいろ仕事があるのだ」  逃げるように去っていった。  あきらかに、オーガストは嘘をついている。その建物に何か秘密があるのだろうか?
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