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「あ……う」
寒冷な地区から徴兵された割には寒さに弱いこの男は、望む望まぬに関わらず朝の底冷えで悲鳴をあげた自分の腹に起こされる。
「い、いたたた……う」
雑魚寝している他の兵を起こさぬよう、ゆっくりと寝袋から這い出る男の名を、サンと言った。
サンは入隊二年目の二等兵、およそ軍人には向かぬ男である。ひ弱で目立った戦功も上げぬ彼の腹事情に、国費で遠征している軍がなにか手をさしのべる訳もなく、男はカチカチと歯を鳴らしながら用をたしにテントから出た。
人肌の温度がまだ残るテントから出ると、寒さが身に染み入る。
「うっ……」
腹を押さえながら体を引きずるようにして、昨夜皆で掘った穴に向かう。
不幸なことに、今日は吐き気もするらしかった。
サンはへっぴり腰でお腹を両手で抱えるというなんとも情けない体勢のまま、足早に駐屯地の端にある空き地に向かった。
きゅるきゅると忙しく音をたてる腹は、サンを急かすように膨張し、サンがズボンを下ろすのに手間取っているあいだに圧力が限界に達した。
「う」
やんぬるかな。サンは下から出せないものを上から吐いた。上腹の胃の辺りを器用に萎ませて、腸を刺激しないように中のものを送り出す。実質下痢は減っていないのだが、圧力は逃がせただろう。
……しかし、せっかく腹一杯食べた昨夜のご飯が無になってしまった。
余裕ができた頭でそんなことを考えていると、左目の端に閃光が走ったような気がした。
「なんだ? うわぁっ」
一拍遅れて、高地に来たばかりの耳のような、プカプカした感覚を覚えた。
そしてサンは、今来たばかりの駐屯地の方角から凄まじい衝撃を感じ、背中の広範囲が焼けただれているのを感じながら、意識を手放した。
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