海の街へ

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「もっと聴かせてあげようか。」 返事は流れ出るように落ちてきた。 その人はまたも、艶やかな微笑みをこちらに向けて、すう、と息を吸った。 ーあぁ、なんて素晴らしい歌声なんだろう。 うつくしい旋律が、全身を撫でるように響き渡る。 先程よりも大きくなった声が、そっと俺を包み込む。 ずっとこの歌声を聴いていたいー その人の繊細な指が、俺の手をゆっくりと掬い上げた。 視線が穏やかに重なり合う。 投げかけられた微笑みに、思わず俺の口角も上がっていた。 導かれるように手をひかれ、そのまま波打ち際を歩いていた。 先程よりひやりとした感触が、足を撫でた。
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