海の街へ

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ジャリ、という気持ちの悪い砂の食感に、思わず顔をしかめる。 自分の前髪から、ぽた、ぽた、としずくがこぼれ続けていた。 「おい、坊主。なしてこげな日に海入ろうと思ったんや。無謀にもほどがあるぞ。」 借り物の白いタオルで髪をわしゃわしゃとふいていると、曽根崎さんがカップを二つ持って戻ってきた。 カップからは、湯気とココアの甘い匂いが立ち上っていた。 野太い声の正体は、この浜の近くに住む漁師の曽根崎さんだった。 親切な曽根崎さんは、海水と雨でぬれねずみのようになった俺を、自宅に招いてくれた。 なんでも、風雨が強くなってきたので、嵐に備えて船を固定しに来てみれば、俺が荒れ狂う海で半身浴をしているところを発見して、度肝を抜かれたんだそうだ。 確かに、俺だってそんなやつを見かけたら驚くだろう。 しかし、嵐どころか、雨が降っていることにさえ気づかなかった。 ほれ、と差し出されたココアを押し頂きながらも、口の中をゆすがせてもらわなくてはおいしくいただくことすらできない。 そこでふと、恐ろしいことを思い出した。 「そそそ曽根崎さんっ!」 盛大にどもりながら身を乗り出すと、曽根崎さんは飲んでいたココアを吹き出しそうになった。 しかし申し訳ないと思っている暇はなかった。 「俺のほかに、もうひとりいませんでしたか?  えっと、髪の長い、色が白くて、あの、美人で!」
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