海の街へ

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「なぎー、荷物持ってきてやったぞ。」 コンコンガチャ。のリズムで部屋を開けると、渚がしかめっ面で睨んできた。 「ノックの後、わたしが返事するまで開けないでよ!」 あぁ、こいつも五月蝿いんだった。 心の中で小さく溜息をつく。 まだ中学1年生の癖に、最近渚は妙に色気づこうとしている。 「別にエロ本隠してる訳じゃないんだからいいだろ。」 勝手に色気付こうと俺は一向に構わないが、周囲にまで迷惑をかけるのだけはやめてほしいものだ。 ドスっとベッドの上に段ボールを置いて早々に退散しようとした時、微かな潮の匂いが鼻をくすぐった。 「へ…海?」 開け放たれていた窓に近付くと、遠くに境界線を無くした青が広がっていた。 「いいでしょ、この部屋。 なんて言うんだっけ、オーシャンビューっていうの?」 先程とはうって変わって、渚は得意げに言った。 そうか。 確か親父が次の引越し先は海が近いとか言ってたっけ。 転勤の多い父親の子供に生まれたおかげで、めっきり引越し先に興味を持つことが無くなってしまっていた。 脳裏に、荷ほどきが終わるまで外出禁止、という母の言葉が浮かんだ。 しかし、時計はもう5時過ぎを指している。 暗くなってしまう前に、少しこの街を散策してみよう。
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