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アンバーが賑わうのは二十一時頃からだ。
今は開店休業状態で、客が来そうな気配はない。
電車が駅に着く何分か毎に、家路を急ぐサラリーマンの波が足早に店の前を通り過ぎていく。
「千も暇なときあったら、店手伝ってよ」
「人手足りてないの?」
「足りてないこともないけど。ま、千目当ての客狙い」
「やだよ。そんな面倒ごとになりそうな客寄せパンダ、カンベン」
あてもなく、スマートフォンのロックを解除する。
SNSのタイムラインをスクロールさせるのはもはやクセのような無意識の日常だがいわば惰性だ。何の記憶にも残らないし、目の前の景色よりも意味がなくてくだらない。
彼女の記事が目に入る。甘いものらしき食べものが写っているが、どうせインスタ用のポーズだ。彼女の美瑠は体型管理を徹底している。スイーツはたいてい一口しか食べず、一緒にいるときは残りを千次郎が食べる。
ニュースのトピックス記事を画面を変えて、それを見ながら、
「ま、金に困ったら雇ってよ」
「千には一生なさそうだな」
「わかんないよ。どこにも就職できないかもしれないし」
「そういう時のための女なんじゃないの?」
「それって本気でダメでしょ、人として。元々俺、年上の女の人は苦手なの。ヒモとかそういう関係じゃなくても、どうしても飼われてる感あるじゃん?」
「なんだよ、いきなり男のプライド? 女の家へ転がり込んでる時点で、タメだろうが年下だろうが飼われてるようなものだろ」
神楽木の苦笑には、子どもを笑う余裕の色が見えて千次郎は面白くなかった。
今、転がりこんでいる彼女のマンションの家賃を半分以上払っているということは言わないでおいた。いちいちそんな主張することこそ、『子どもっぽいこと』だからだ。
普段から彼女との生活および飲食にかかる費用は基本的に千次郎持ちだが、所詮は親の金であるから声を大にして主張できない。それもわかっている。
二十歳は超えたが大学生などすねかじりもいいところで、子どもに毛が生えたようなものだ。その自覚もある。
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