7.馬車がカボチャに戻ってもモラトリアムに夢を見る

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 鶴千佳は物心ついた時から傍にいた。  鶴千佳の母親が病気がちだったので、年の近い姉妹のいる川北家で面倒を見ることが多く、共に育った。  聡子とは一時、婚約状態にあったが、響子が出戻ってきたときそれは解消された。  もっといえば、響子が妊娠するまでは、鶴千佳は響子の婚約者だったのだ。  聡子に弟ができなかったから、響子が婿を取るのが川北家の必至になった。  地元で相手を探したようだがおらず、どういういきさつかは知らないが、婿候補に鶴千佳が選ばれた。鶴千佳も財投家の長男だというのに。  鶴千佳はいつも飄々として、何事にも柔軟なよくしなる柳のような男だったからか、当時まだ高校生だったのにそんな御家事情さえ嫌がらずに受け入れていた。  あんまりなので、おさがり状態の聡子と婚約しなおしたとき、そんな人生で嫌じゃないのかと尋ねたことがある。  鶴千佳は、自分で選んでする結婚よりこの方が面倒くさくなくていいと言っていたがおそらく本心だ。聡子も似た考え方が性格にあるからわかる。  でなければ、響子が出戻ったとき、「だったら俺が響子と再婚するわ」と言えやしないだろう。  もとより、恋愛や結婚に多くを望んでおらず、両家、当人たちの摩擦が少ないことを一番重要視していると言っていた。  幼いころから親族の結婚に附随する色々は子供にもあからさまだったから、そう思うのも仕方ない。それは聡子も同じだ。  姉の響子はよく言えば天真爛漫、言ってしまえば、はねっかえりのおてんば娘で、常にきままで自由な人だった。  親が敷いたレールに乗らないというレベルでなく、響子が親の決めたとおり、言うとおりにしたことは一度もない。  せっかく入った中高一貫の学校も中学で辞め、公立高校を受験した。  常に好き勝手やっていたがバレエだけは途中で投げ出すことはなく、最終的にはロシアに留学するまでのものになったが、それも妊娠、結婚、そして離婚に至ったことで、道半ばになってしまっている。
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