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聡子が八田駅に着いたのは、すでに約束の時間を一時間半も過ぎたころだった。
メッセージを送信して、電車が停車するのを扉の一番前で待ちかまえる。階段を駆け下り、降車した群衆から頭一つ抜けて改札口を出た。
急な残業で退社するのが遅くなってしまった。
残業など一年に一度あるかないかのことなのに、よりによってそれが予定のある日に限ってという皮肉はもはや世の中の常だ。
聡子の仕事である受付業務は来客や電話の取り次ぎのみで、湯茶接待は基本的に各課での仕事とされている。
それが今日はイレギュラーかつ突然に接待を任され、それが夕方の来客だったからこんな時間になってしまった。おまけに本来なら秘書課の領分だったので、受付嬢ごときが出しゃばるなという痛い視線に晒され、実働以上に気疲れした。
受付と秘書課は普段からあまり仲がよろしくない。
外はもう真っ暗だった。聡子は急ぎ足でアンバーを目指す。
今日は大学時代の友人である葉子と会うことになっていて、葉子の方はすでにアンバーに着いている。
二人の女子会が行われる店は、二回に一回はアンバーが使われる。聡子の気持ちを知る葉子の計らいによるものだ。
葉子は朗らかで人懐こい性格なので、聞き手に回ることの多い神楽木に対しても臆することなく自分から話題を振ることができるし、酒にも強いから飲む量もたくさんなので気兼ねなく長居ができる。正直なところ、聡子としては一人で訪れるときより居心地がいいくらいだ。
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