2.ファッションってオシャレじゃなくて気遣いなんだよ

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2.ファッションってオシャレじゃなくて気遣いなんだよ

 八田駅の高架を北から南へくぐる。  横断歩道を渡る人はだれもいない。駅前といえど日曜日の早朝、人はまばらだ。  まだうすい色の朝日のなか、聡子と葉子はアンバーを目指していた。 「ふあー。ネムーイ……。車の中で寝ていいかなー」  大きなあくびをしながらそう言う葉子の口調はまだ目覚めのものだ。しかし、メイクだけはばっちり完了している。 「それ感じ悪くない?」 「あ、聡子待って。コンビニでお茶買う」  集合時間は朝の七時。  万太郎からひどく遠慮がちに「早すぎるかな」と提案された時刻だが、聡子はアウトドアとはそういうものだと思っていたので問題はなかった。  しかし葉子の方は想定外だったようで、「起きられる気がしない」と言って、前の晩から聡子の家に泊まり込みだ。  学生時代から葉子は朝が苦手だった。  聡子も早起きはそれほど得意ではないが、今朝に限って寝坊することなど考えられなかった。昨夜は夜遊びもせず小学生なみの時間に就寝したせいもあって、聡子が目覚めたのは四時だ。  あの夜のバーベキューの企画は、拍子抜けするほどあっさり実現した。 「もしマンタから連絡あったら聡子がやり取りしてくれる? あたしがやるよりその方が段取りもうまくいくだろうし、まかせていい?」  アンバーで酔いつぶれ、その流れで聡子の部屋に泊まっていった葉子は、翌朝目覚めてそう言った。  酒のまわりが気持ちよくて寝てしまっただけで悪酔いしていたわけではないらしく、二日酔いもなければ記憶もちゃんとあるという。  とは言え、アンバーから聡子のマンションまで徒歩十分足らずの距離を、タクシーを呼んでもらって帰った。  葉子は誘うより誘われることの多い人間なので、主宰の立場に立つことがほとんどない。そういったことは昔から聡子の役目なので、今回も当然にそれを引き受けたが半信半疑だった。酒の席の話だ。  それに、新しい陽の下であらためて考え直してみたとき、神楽木とプライベートで会えるなど夢のような展開があるわけがなかった。だから葉子とも話半分で考えておこうと言って別れたのだが。
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