2.ファッションってオシャレじゃなくて気遣いなんだよ

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 彼女を紹介される。線の細い大人しそうな女性だ。 「梅田理恵(うめだりえ)です」  歳もおそらく聡子らと同じか前後しても一つくらいの差だろう。  バーで知り合った女と遊ぶというのは、話だけ聞けば理絵にとって聡子らは捨て置けない存在だろうが、あまり気にしている様子はない。  万太郎の性格からしてこういうことがよくあり慣れているのか、信頼しきっているほど付き合いが長いのか。  天気のことなど当たり障りのない話を女同士でしていると、例のイケメン君が店から出てきた。  千次郎の返事が参加だったことは事前に聞いている。  賢や葉子、万太郎にしてもどこか朝寝を引きずった顔をしているが、子供らしく寝起き直後かと思いきや意外にも千次郎はすっきりとして、以前会ったときと変わらない。 「あー。こいつ、弟」 「どうも、鳳千二郎です」 「川北です」 「葉子でーす。わー、ほんとイケメンだ」  しっかりと頭を下げる聡子の一方で、後ろから葉子が適当な自己紹介を挟む。  千次郎は律儀に聡子に向き直って、「前にここで会いましたよね」と言った。  神楽木から事前説明を受けているのだろう。  千次郎の言葉は紳士的な気遣いからであって、実際にはそのときのことを覚えていないだろうことはわかったが、特にそれを残念とも思わない。  聡子にとって千次郎は特別印象に残る容姿であっても、相手にとって自分がその他大勢に分類されることは承知している。
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