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八田駅を南口から出て、駅前通りを少し行った所にできた『Un-bar』という店は、テナントを募集している頃からすでにチェック済で、ようやく内装の工事が始まった時には何の店ができるのだろうとわくわくした。
次に通りかかった時には店は出来上がり、営業も開始していた。
面積の小さなガラス窓から少しだけ窺うと、並んだ胡蝶蘭が店内の様子を隠していて結局何の店舗なのか詳しくわからずにいた。花の咲きぶりからして昨日今日にオープンしたわけではないようで、枝の花の数がすでにまばらになっていた。
最初は美容院かと思った。
古いビルの一階をリノベーションした店舗は、間口があまり広くなく、道に面するほとんどが白い壁で、一部分だけ切り取られた、まるでのぞき窓のようなガラスの部分がある。
入口のドアの横に控えめな看板があって、どうやらそこがバーらしいとわかったのは偵察を兼ねて三回目に前を通ったときだった。
アンバーは薄暗くなった町並みに、間接照明によって只ならぬ雰囲気を放っていた。
八田にしては飛びぬけてハイセンス店だったが、なにぶんファッショナブルな土地柄ではないため、地元住民は敬遠しているように思えたし、あまり酒が得意ではない聡子はお呼びでない種の店だった。
ましてや一人で訪れるなどもってのほかで、せっかく新しい店ができたのにそれがカフェやブランジェリーでなかったことにがっかりしたものだ。
それでも気になるところではあったので、その先にある服屋を覗くついでに、聡子が横目で様子を伺いながら店の前を通りかかったときだった。
店を謎のベールで包んでいる閉鎖的なドアが開いたかと思えば、開店せんと看板を道に出すところのマスターと出くわし、目が合ってしまったのだ。
むんとした湿気の残る菫色の夕方だった。
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