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「聡子って」
「うんー?」
「もしかして、コウさんのこと、好きなの?」
聡子の浮かれた足取りがぴたりと止まる。
「俺、そういうのに敏感な方なのになぜか全然気づかなかった。まるでその可能性が抜け落ちてた」
無言を肯定ととったのか、それとも聡子の返事にかかわらず確信があるのか、千次郎は続ける。
「アンバーがコウさん目的の女性客が多いってのは有名なのに、聡子と葉子さんはそれ狙いじゃないって兄貴がバーベキューに誘ったりしたからかな、違うっていう先入観があったのかも。それに、コウさんは常に傍観者っていうか、あくまでカウンターの中の人で、別次元ていうか、客と同じ土俵に上がることはないっていつも言ってるし、そういう俺の思い込みもあった」
酒で鈍った思考のせいか聡子は誤魔化す言葉が咄嗟に出てこない。
本心を隠すのは得意で、だからいつもそうやって隠して、ごまかして、波風を立てないように聡子は生きてきた。
もっとも聡子が神楽木を好きであることで、どこにも波風など立たないけれど。
「それに聡子はそういう恋愛をしないタイプかと思い込んでたところがあった。コウさんは……」
「……そういうって、たとえばどういう恋愛?」
千次郎の言葉が核心とは違う部分で気になって、ごまかしついでに尋ねてみると、
「いや、えっと……なんか、うまく言えないけど……、聡子は堅実な感じがするから」
千次郎は言葉を濁したが、おそらくそれは聡子自身も一番わかっていることだ。
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