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「確かに、たくさんライバルがいるような人気のバーテン相手に望み薄の恋をするタイプではなかった」
これまでなら、相手がどんなに魅力的であってもこんな冒険的な恋は最初にふるい落としていた。もっと堅実で、身の丈にあった相手と平凡だが安定した恋愛を選んできた。
「千ちゃん、なんで気づいたの? 私、態度に出てた?」
これまでもこれからも聡子の気持ちを知るのは葉子だけで、この先も誰にも、もちろん本人にさえ気づかれずに終える自信があったのに。
「だから、俺そういうのにすごく敏感なんだって。……でもコウさんも俺と同じ人種だよ。仕事柄もあるかもしれないけど、性格的にもすごく過敏な人だと思う」
「だから私もすごく慎重に、絶対バレないように気をつけてたのに」
「やっぱり故意的だったんだ」
「……うん」
「なんで? バレたっていいじゃん。でないと意識されないし」
「私もそういうの感じてたから。コウさんはお客さん相手に恋愛なんて絶対ないし、私がそういう目で見た瞬間、『ただのお客さん』から、さらにもう一ランク下げられるって」
「うん、たぶん、そうだと思う……」
「だから、そういう警戒は絶対されたくなかったの。私も千ちゃんと同じこと、今も思ってるよ。カウンターの向こうにいる人で別世界の人で、端から付き合えるとも思ってないし。内緒にしてて。お願い。分不相応なことは絶対しないから。……バーベキューの話が出た時ホントに驚いたし嬉しかったの。それで、今、すごく楽しい、から……」
言いながら、なんだか泣きそうになってしまった。
「てか、本人に言ったりしないよ。けど告白とかは? つきあいたいとかさ、思うでしょ」
「ないよ」
はっきり、きっぱりと断言した聡子に、千次郎は眉をひそめた。
「彼氏ほしくないの?」
「うん」
「なんで? 結婚とか焦ってないの?」
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