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千次郎はさすがにデリカシーを欠いた問いだと気づいたのか、あ、と小さく呟いてから「ごめん」と付け足した。
二十歳そこそこの千次郎に、三十路目前の聡子。
年齢の問題はもちろん、男と女の違いもあって、ましてや容姿に何の不自由もない千次郎に平凡な聡子の気持ちがわかるはずもないだろうし、細々と説明する気もない。
なにより、聡子にはもっともな理由があった。
「来年の三月で仕事辞めて、実家に帰るんだ、私」
「え、実家? どこ?」
「四国。東京で暮らすのは三十までって親と約束してて。もうすぐタイムリミットなの」
聡子のカウントダウンはもう始まっている。
「そうなの?」
「うん」
「でも、だからって付き合わないとか付き合いたくないとかよくわかんねー。好きなのに。実家に帰る約束とかそれこそどうにでもなるんじゃん。遠恋って手もあるじゃん……。なんで最初からあきらめてんの?」
「わかんないのは千ちゃんが若いからだよ。十代とかハタチみたいな情熱はないし。無理して抗う熱量もない。諦めることの方の楽に流されがちになる」
「そんなに違うの? 二十一と三十って」
隣を歩く、九つ下の美男子がそう言って聡子を見る。
都会の曇った夜空の下で、少しだけ賑やかな駅前のネオンに金色の髪を照らされながら。
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