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4.大学のとき相手はまだ小学生だよ、九つ差って
聡子を駅の向こうのマンションの下まで送って、再びアンバーに戻ると客が増えていた。
神楽木はカクテルを作りながら女性の二人連れの相手をしている。
そのほかに男の一人客と、聡子と入れ違いに入った女性。
アンバーの客層など今まで気にも留めたことはなかったが、以前から圧倒的に女性客が多いことは知っていた。
つまり、それくらいあからさまな目的を持って女性がこの店を訪れているということだが、聡子もそのうちの一人だったと今日まで気づけなかったのは、ひとえに聡子がメスの匂いを一切出していなかったせいだ。
千次郎自身、まだ頭が整理できていない。
聡子の気持ちにまさかと疑いの芽が芽生えたのはほんの偶然だった。
いつもより多めの酒にまんまと負けて、ガードが少し緩んだところに美味しいものを食べることで素の部分が一瞬顔を出した、そんな感じだった。
ひらめきのように、聡子の隠された気持ちが目に見えた。
特別に聡子に興味を持って、観察するように見ている千次郎だからこそ気づけたのかもしれない。
振り返ってみれば、腑に落ちる点はいくつかあった。
しかし、それらは今思えばというレベルでもので、そういう好意に人一倍鋭い神楽木や千次郎をもかいくぐった聡子のその才能はある意味素晴らしいものだ。
神楽木は、聡子の気持ちには気づいていないと断言できる。
今、接客している神楽木はさきほどまでとは違う。完全に営業用の顔になっていて、そういう客への警戒は特に強い。
だから、神楽木がそれと違うスタンスで聡子に接することも誤算の要因の一つだった。
神楽木が『安牌認定』している聡子だから。
聡子がまさかその裏をかくなんてありえないはずだった。彼にとっては失態に違いないが、聡子に下心がないからこそ成せるわざかもしれない。普通なら欲をかいてその先を望んでしまう。それが自然だ。
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