4.大学のとき相手はまだ小学生だよ、九つ差って

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「何を小耳に挟んだんだよ?」  美瑠と出会ったときも貴大が一緒だった。  男女数人で遊んだのがきっかけだから、当然貴大と美瑠は知り合いだ。  街で偶然会って立ち話という可能性もないことはないが、タイミング的に美瑠が貴大に相談を持ち掛けたのだろうか。 「どしたの? 実家なんかヤバイとか?」  互いに親が自営業で、将来を考える年齢にも差し掛かり、家業が話題に上ることが多くなった。  千次郎がしょっちゅう八田に帰っていると聞いて、貴大はその可能性を思ったのだろう。 「いや、そういうんじゃない」 「んじゃ、なんで。前は全然帰ってなかったじゃん」 「てかさ、美瑠はなんて?」  本意ではなく口調にいら立ちが混ざってしまい、またそれを敏感に感じたのか貴大がニヤリと笑う。 「あ、もしかして妬いてる?」 「妬いてねえから」 「いや、そこは妬くとこだから。むしろ妬いてあげてよ」  千次郎が黙っていると、今度は悲しそうな顔になった。 「え? なに、もう美瑠ちゃんのこと好きじゃないの?」 「いや、そういうわけじゃ……ないことは、ないのか……?」  自らの行動を客観的に見て、考えてみれば語尾を訂正せざるを得ない。 「え、まさかの地元!? お前、地元に友達いたっけ? あっ、もしかして親とかの紹介とか」 「親とかそういうんじゃない。まあ、八田に帰ってんのは嘘じゃないんだけど……」 「全然話見えねえんだけど。つか、俺ら話かみ合ってなくない?」  貴大がのぞき込んでくるのを手で押し返して、 「わかってるよ。お前が言いたいことも美瑠の不満も大体はわかってる。で、今、ちょっと反省してる。確かに周りが見えてなかったかも。そりゃ、美瑠も変に思うよなー」  今までは美瑠を最優先にしていたし、束縛やわがままも苦に思ったこともない。  しかし、最近は美瑠の都合に合わせることはないし、千次郎自身のタイミングさえ合えば八田に帰る日々だ。  それで変に思わない方がおかしいし、むしろそんな態度を美瑠に取っていた自分の詰めの甘さが信じられない。貴大のことを心配している場合ではない。 「貴大にサグリ入れられてる俺、ダサいわー」  ダサい、と貴大は笑う。 「彼女を大事にするのが千のイイトコロなのに」 「そう、俺のポリシーなんだよ。お前と違ってな」 「そうそう」  ははっと軽やかに空を仰いでから、次は興味深々な顔で、 「なに、まさかもう付き合ってんの?」
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